釣具だけに限った話ではありませんが、メーカーや小売店から提供される情報の中には偏った(一面的な視点からの)情報というものが散見されます。
そして、偏った情報を前提に魚の習性やルアーの特性を考えたとき、そこから導き出される結論というのは一面的(一方的)な内容…という可能性があることは想像に難くありません。
その一面的な結論が正答であれば結果オーライですが、その情報そのものに誤りがあったとすると、誤答沼にハマるかもしれません。
また、正解か不正解かの結論が出ないにしても、情報を多角的に捉えることができない場合、一面的な情報に振り回されることになるかもしれません。
そこで、このページでは、田舎の中古住宅が買えるくらいの金額を釣具に費やした管理人が、釣りに関する『情報の捉え方』についてご紹介します。
最近の釣りメディアでは、釣りに関する情報がメーカーのために中・上級者目線で発信されるようになりました。ナチュラルリリースでは、ビギナー目線で語られることが少なくなった「釣りに関する『キホンのキ』」をビギナー目線で発信しています。
情報を多角的に考えることは容易ではない
一口に「情報は多角的に捉えた方がいい」といっても、実際のところ、それほど簡単なことではありません。
というより、情報を多角的に捉えるのが容易であるならば、誰しも一面的な情報を鵜呑みにすることはありません。
ある程度経験を重ねてくると、発信される情報に対して(いい意味でも悪い意味でも)「穿った捉え方」をするようになってきます。
という感じで。
しかし、まだ釣りを始めたばかりのピュアなアングラーであれば、メーカーやプロアングラーが発信する一面的な情報を鵜呑みにするというのは往々にして起こり得る話です。
以下では、情報を一面的に捉えている(と考えられる)具体例をご紹介します。
波動の広がる範囲は?
波動はシーバスに効果があるのか?
情報を一面的に捉えている典型的な例が、『波動』です。
波動とは、ルアーのアクションによって引き起こされる水粒子の振動という感じで説明されます。
波動と呼ばれる水の粒子の振動が、シーバスの側線を刺激することでシーバスを惹きつけるとか、シーバスの捕食を促す、と説明されています。
とか
とかって感じで。
この『波動』と呼ばれる水粒子の振動については、多くのアングラーの間で、その効果について肯定・否定の分かれるところです。
そんなことはシーバスに聞かなければ分からない
波動の効果については各メーカーや個々のアングラーによって意見の分かれるところです。
ただ、釣り人の経験則に頼ったところで、どこまで情報が集まろうと、結局は想像の域を出ません。
波動によってルアーに興味を抱いたのか?
波動によって捕食行動が促されたのか?
そんなことはシーバスに聞いてみなければ分かりません。
おそらくは…魚類学者らがかなり頑張って実験しようとしても、結論は出ない問題だと考えています。
波動に関するもう一つの視点
波動に関するこの話は、シーバスの視点に立って、侃々諤々の議論がされているところです。
ところで、そもそも、シーバスの側線を刺激すると説明されるルアーの波動というのは
ルアーからどれくらい離れた場所まで到達するのか?
という問題について考えたことがあるでしょうか?
あるいは、この点についての各メーカーやプロアングラーの説明を聞いたことあるでしょうか?
少なくとも、僕は、各メーカーや個々のプロアングラーが
といった説明をしているのを聞いたことはありません。
でも、仮にルアーの波動がルアーから30cmの距離くらいしか広がらないとするならば、ルアーから30cmの距離にいるシーバスにしか効果がないということになります。
つまり、ルアーが引き起こす波動はどれくらい遠くまで広がるか?というのは、実はとても重要な問題なのです。
これが、ルアーの視点に立った波動の考察です。
以前、某釣り系SNSサイトでルアーの『波動』について話題になったことがありました。ナチュラルリリースでも話題に乗っかって、その話題に沿うかたちでルアーの『波動』についてご紹介したことがありました。ただ、その記事はビ[…]
ルアーの視点から波動を考える方が明瞭
波動の効果を考えるにあたっては
②ルアーが引き起こす波動はどれくらいの範囲に影響があるか(ルアーの視点)
という2つの異なる視点から考えることができます。
このうち、誰がどう考えても答えが出やすいのが②の方です。
①というのは、シーバスを使った実験をどれだけ重ねたところで、「結局のところシーバスに聞かなければ分からない」という補足が付いて回ります。
しかし、②というのは地球上における単純な物理の問題です。
という物理学のテーマです。
計測方法によって誤差が生じるかもしれませんが、結果が倍半分になるようなことはないでしょう。
つまり、波動の効果を考えるためには、科学的に解明可能な②から明らかにした方が圧倒的に効率的なはずです。
情報は一面的に発信される
「波動の効果」というテーマを考えるとき、シーバスの視点(①)とルアーの視点(②)という複数のアプローチの方向性があり得ます。
そして、「波動の効果」を合理的に考えるためには、まずは客観的に計測可能な②の視点が優先的に検討されるのが普通です。
それにもかかわらず、ルアーの波動が伝播する範囲というテーマについて、各メーカーや個々のプロアングラーから語られたのを聞いたことがありません。
このように、客観的に計測可能な情報が発信されず、客観的に判断し難い情報だけが一方的に発信されるというのはよくある話です。
経験則は一面的?
これは主にプロアングラーに関することです。
プロアングラーの方々は、一般アングラーとは比べものにならないほど場数を踏んだ経験豊富なアングラーです。
そのプロアングラーが語る経験というのは、場数を踏めない一般アングラーにとっては非常に有益な情報といえます。
しかし、このプロアングラーが語る経験則も、かなり一面的な視点から語られることが少なくありません。
シーバスが釣れた条件を仮定してみる
たとえば、下記のような条件のときによくシーバスが釣れたとします。
・水深3m前後
・新月の後中潮
・ベイトはサッパ
・90mm前後のシンキングペンシル
・ルアーのカラーはアカキン
・上流から明暗に向かって流して、暗部に差しかかる直前の明るい場所でターンさせたときにヒット
これは完全に仮想のシチュエーションです。
過去の経験上、こういう状況でよくシーバスが釣れたと仮定します。
ルアーのカラーを重視するアングラーは…
このような条件において、ルアーのカラーをとても重視するアングラーの中には
と説明する人もおられるでしょう。
これが間違っているわけではありません。むしろ、自分の経験に基づいて、釣れた状況をありのまま説明しています。
ルアーの流し方を重視するアングラーは…
上記と同じ状況において、ルアーの流し方を重視するアングラーからはどういう説明になるでしょうか?
たとえば
といった説明が考えられるところです。
これも間違っているわけではありません。自分の経験に基づいて、釣れた状況をありのまま説明しているだけです。
同じ経験をしても異なる解説になり得る
このように、まったく同じ経験をした複数のアングラーがいたとしても、釣れたパターンの解説が同じになるとは限りません。
ルアーのサイズやカラーを重視してアプローチしているアングラーが、釣れた要因をルアーのサイズやカラーに求めるのは当然です。
他方で、ルアーの流し方やターンを重視してアプローチしているアングラーが、釣れた要因をルアーの流し方やターンをさせるタイミングに求めるのも自然な発想です。
つまり、同じ場所で釣りをしていて同じように釣れた経験をしても、アングラー目線で釣れた要因をパターン化する時、これが同じパターンになるとは限りません。
また、それぞれのアングラーのうち、どちらかがいい加減な情報だったり、ウソの情報を発信しているわけでもありません。
どちらのアングラーも、経験に基づいて、釣れた状況をそのとおりに解説しているのですから。
そのため、発信された情報を受け取る側も「これは一面的な情報かもしれない」ということを意識しておく必要があるでしょう。
一面的な情報だけで判断することの弊害
一面的な情報だけで釣りをすると、時に弊害が生じることがあります。
それは選択肢が限定されるという問題です。
たとえば波動の話でいえば、「波動が伝播するのはルアーから30cm程度の範囲」だと仮定するなら、「遠くの魚へアピールするために強波動のルアーを選ぶ」ということは成り立ちません。
波動は30cm離れたところまでしか届かないわけですから、「遠くの魚へアピールできる強波動のルアーを選ぶ」というのは、そもそも意味のない選択肢になります。
このように、波動に関してシーバスの視点からだけで効果を考えると、(波動で遠くの魚にアピールするという)意味のない条件を考えることでルアーの選択肢が不必要に限定されてしまう可能性があります。
あるいは、プロアングラーが経験に基づいて提唱するパターンフィッシングも同じです。
プロが幾多の経験から導き出したパターンも、一面的な情報にすぎない可能性があります。
そのため、情報を受け取る側のビギナーとして、プロアングラーの解説するパターンやメソッドを
というパターン化された唯一のメソッドのように捉えると、仮にそのメソッドが、実は釣果と関係ないものであった時に、その他の手の打ちようがなくなってしまいます。
このように、一面的な情報だけで釣りの方法論やメソッドを考えようとすると、知らないうちにその選択肢の幅を狭めてしまう弊害が起こり得ます。
情報を多角的に捉えると釣りの選択肢が広がる
釣りメーカーや釣りメディアによって発信される情報は、一面的な視点から発信されたものも少なくありません。
このような情報を多角的な視点で捉えられるようになると、より効率的にルアーの選択肢を絞ったり、逆に、選択肢を絞る必要のない問題について不必要に選択肢を狭めることがなくなります。
多角的な視点で捉える…というのは、確かに簡単でありません。
しかし、このような考え方ができるようになると、もっともっと自分の釣りのスタイルが自由でフレキシブルになり、「遊びとしての釣り」を今まで以上に楽しめるようになるでしょう。