リールはハンドルを回転させることで各パーツが駆動します。
その基本構造は単純です。
ギアと呼ばれる歯車が回転することで、別の歯車を回転させます。
ところで、リールには必ずギア比というのが表示されています。
このギア比は何のために表示されているのでしょうか?
ギア比が変わると、リールの何がどう変わるのでしょうか?
このページではリールのギア比についてご紹介します。
リールのギア比とは?
ギア比とは
リールのギア比というのは
リールのハンドル1回転に対するスプール(ローター)の回転数の比
です。
たとえば、ハンドルを1回転したときにスプールが6回転する場合。
これをギア比1:6と表示します。
あるいは、『1:●』の1の部分はすべて共通のため、単にギア比6と表示することもあります。
ノーマルギア・ハイギアとは?
標準的なリールのギア比をノーマルギアと呼びます。だいたい、5~5.5くらいのものが多い印象です。
『標準的』といっても、特に決まりがあるわけではありません。
これよりもスプール(ローター)の回転数の多いものがハイギアです。1:5.8とか。
反対に、これよりもスプール(ローター)の回転数の少ないものがローギアです。1:4.8とか。
また、メーカーはアルファベットでもギア比を表示しています。
ローギア=P
ハイギア=H
エクストラハイギア=XH
ローギア=PG
ハイギア=HG
エクストラハイギア=XG
いずれのメーカーも、これらのアルファベット表示がないものがノーマルギアです。
ギア比の違いによるメリット
ノーマルギア、ハイギアそれぞれのリールにメリット・デメリットがあります。
まず、ハイギアのメリットは、仕掛け(ルアー)の回収が早いことが挙げられます。
ハイギアは、ハンドル1回転に対してスプール(ローター)の回転数が多いので、ハンドル1回転でより多くのラインを巻き取ることができます。
また、ルアーフィッシングにおけるハイギアの最大のメリットが感度の良さです。
これについては後述します。
次に、ノーマルギア(ローギア)のメリットは、巻き上げパワーが強い(巻きの滑らかさ)です。
これについても後述します。
リールのギアは日常的な乗り物と同じ仕組み
そもそも、ギアが遅いとか速いというのが、言葉では理解できても、現実の問題としてイメージできない人もいるかもしれません。
ギアが遅いとどうなるのか?
ギアが速いとどうなるのか?
これについては、日常的な乗り物で体感することができます。
リールのギアは自転車と同じ
ギアの付いた自転車に乗ったことはありますか?
一般の人が乗る自転車には、3段変速や5段変速の自転車があります。
という順にギアを切り替えることができます。
ペダルを1回転漕いでもほとんど前に進まないのが『遅ギア(ローギア)』。
ペダルを1回転漕ぐと遠くまで進めるのが『速ギア(ハイギア)』。
では、遅ギアにはどのような特徴があるでしょうか。
遅ギアは、ペダルを漕いでもあまり前に進めません。そのかわり、軽い力でペダルを漕ぐことができます。
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ…と。
自転車の漕ぎ始め(動き出し)や、坂道を漕いで登るのに適しています。
では、速ギアにはどのような特徴があるでしょうか?
速ギアは、ペダルを一漕ぎするだけで遠くまで進めます。その反面、ペダルの漕ぎ始めがとにかく重い。
そのため、まずは遅ギアでペダルを漕ぎ始めて、スピードに乗ってから速ギアに切り替えるのが一般的です。
自転車の遅ギアは、リールでいうとノーマルギア(ローギア)です。
自転車の速ギアは、リールでいうとハイギアです。
⇒自転車のギアの仕組みについてはコチラ
自動車のギアもリールと同じ
この仕組みは、なにもリールや自転車だけの話ではありません。
自動車(MT車)も同じです。
MT車の遅ギアは、リールと同じようにローギアと呼びます。1速です。
MT車のローギアも自転車の遅ギアと同じです。
車を発進させたり、坂道を登るなど、パワーが必要なときに使います。
その反面、アクセルを踏み込んでもスピードはそれほど上がりません。
ローギアはパワーがあるので、立体駐車場のような急な登り坂での坂道発進のときに使います。
MT車の速ギアは、トップギア(4速)やオーバートップギア(5速)と呼びます。
アクセルを踏み込むと速度が出る反面、長くて急な登り坂を登り切るほどのパワーはありません。
ハイギアリールの感度が良くなる仕組み
リールの感度が問題となる場面
リールの感度というのは主に二つの場面で問題になります。
一つは、ルアーに物が触れたとき(ルアーに物が引っ掛かったとき)。
たとえば、糸のように細くて短い海藻がルアーのフックに引っ掛かったとき。
糸のように細い海藻が引っ掛かっただけでもルアーの動きは変わります。
このルアーの動きの変化がわかるか?
もう一つは、流れの変化です。
目の前に広がっている海は、同じように見えても、潮の流れは一定とは限りません。
表層と底層で流れの強弱が違うことがあります。
また、同じ表層であっても、部分的に潮の流れが強く流れているような場所もあります。
この流れの変化がわかるか?
これがリールの感度という問題です。
では、ギア比が速いと、なぜリールの感度が良くなるのでしょうか?
巻き上げパワーの弱さが『感度』となって現れる
ローギアやノーマルギアのメリットは、巻き上げパワーが強いことです。
そのため、重い仕掛けを回収したり、掛かった魚をリールの力でゴリゴリ巻いて引っ張ってくるのに適しています。
ハイギアのリールは、巻き上げパワーという点ではギア比の遅いリールに劣ります。
ハイギアになればなるほど巻き上げパワーが弱くなります。
これは自転車や自動車も同じです。速ギアになればなるほどパワーが弱くなるため、漕ぎ始めのときにペダルが重くて苦労します。
そうすると
と思えるかもしれません。
しかし、リールに関していえば、必ずしもデメリットとはいえません。
なぜなら、この巻き上げパワーの弱さが感度となって顕在化するからです。
パワーが弱いからこそ抵抗(負荷)に気づくことができる
エクストラハイギアのような巻き上げパワーの劣るリールは、極細の海藻が一本ルアーのフックに引っ掛かっただけでも気づくことができます。
それは、巻き上げパワーが弱いからこそ気づけるのです。
ルアーのフックに引っ掛かった海藻は、ルアーの動きにとっては邪魔な抵抗になります。
巻き上げパワーの劣る速ギアリールを使っていると、この抵抗を違和感として知覚することができます。
誤解を恐れずにいえば
ということです。
これが『感度』の正体です。
パワーの弱い速ギアで自転車を漕いでいて坂道に差しかかると、ペダルを漕ぐのが重くなります。
これと同じです。
パワーの弱い速ギアの自転車では、負荷が掛かる状況になると、ペダルの漕ぎ重り(リールの場合は巻き重り)という形で負荷を体感できるようになります。
逆に、パワーのある遅ギアの自転車では、わずかな負荷が掛かったところで、そのままペダルを漕げてしまいます。
自転車のギア比が速くなればなるほど、見た目にはほとんどわからない傾斜の坂道でも、ペダルが重くなることによって、坂道の存在に気づくことができるようになります。
リールのギア比が速くなればなるほど、ほんのわずかな水流の変化やゴミでも、巻き重りという違和感によって流れの強弱やゴミの存在に気づくことができます。
これが、ハイギアリールの感度が良いといわれる仕組みです。
速ギアで坂道を登るほど重くなるわけではありません。
ハイギアリールにデメリットはないのか?
仕掛けの回収も早く、巻き上げパワーの弱さを感度に変換できるのがハイギアリールです。
このように説明すると、ハイギアリールにはデメリットがないようにも思えます。
しかし、ハイギアリールにもデメリットはあります。
それが初動の巻き重りです。
リールがまったく回転していない状態から最初の回転運動を始めるときの巻き重り。
これは、ハイギアリールの方が明らかに初動が重いです。
速ギアで自転車を漕ぎ始めるのとまったく同じです。
速ギアで自転車を漕ぎ始めようとするときに、立ち漕ぎでペダルを漕ぎ始めませんか?
ペダルが重いから。
これはリールも同じです。
速ギアのリールになればなるほど、リールが初動するときに巻き重りを感じるようになります。
しかし、リールには自転車のような変速機能はありません。
そのため、リールの場合、初動の巻き重りはハイギアのデメリットとして残ってしまいます。
ハイギアはスローな展開でさらに効果を発揮する!
これは語られることが少ない話です。
ハイギアリールの感度というのは、実は、スローな展開で釣りをする場合に、さらに効果を発揮します。
慣性が作用しない方がいい
すでに述べたとおり、リールのギア比は速くなればなるほど、回転運動の初動に巻き重りが生じます。
しかし、いったんスプールやローターが回転運動を始めてしまえば、慣性の力が働きます。
スプールやローターの回転運動は慣性の力によっても補助されます。
なので、回転運動を始めてしまえば、抵抗や負荷が掛からない限り、巻き重りというのはほとんど気にならなくなります。
そして、慣性の力はリールの回転運動が速くなればなるほど大きくなります。
そうすると、リールを早く巻いているときは、慣性の力による補助も大きくなるので、スローに巻いているときよりも巻き重りしにくくなります。
つまり、早く巻いているときは違和感に気づきにくくなるということです。
巻き上げパワーの弱さが感度となって現れるハイギアリールは、慣性の力が働きにくいスローな釣りのときに、さらに効果を発揮することができます。
ハイギアリールを遅く巻け!
「ルアーをスローに動かしたいのにハイギアリールを使う」
というのは、なんだか矛盾しているようにも思えます。
釣具屋の店員さんの中には、ナイトゲームのようなスローな釣りにはノーマルギアを薦める人もいるくらいです。
たしかに、ハイギアリールはハンドル1回転あたりのラインの巻取り量が多いです。
そのため、同じ速さでハンドルを巻いた場合、ノーマルギアよりもハイギアの方がルアーが速く動いてしまいます。
そこで、ハイギアの場合、ノーマルギアよりもゆっくりとハンドルを巻く必要があります。
ハイギアはどれくらい遅く巻かなければならないか?
問題は
どれくらいゆっくり巻く必要があるのか?
ということです。
ハンドルを巻く速度が倍半分ほども違うなら、釣具屋の店員さんの言い分も理解できます。
でも、ノーマルギアとエクストラハイギアの糸の巻取量の差を考えると…
エクストラハイギアで80〜90%の速さでハンドルを巻けば、ノーマルギアと同じスピードでルアーを動かせるはずです。
ノーマルギアで1秒間にハンドル1回転の速さで巻く場合。
ハイギアでは1秒間にハンドル10分の9回転という感じです。
…で、正直なところ、これって微調整レベルの差じゃない?ってのが、僕の感想です。
というより、多くの釣り人にとって微調整レベルの問題でしょう。
というのは、とてつもなく大雑把な説明なので、そんなに気にする必要はありません。
ローギアの方が感度が良いって聞いたけど…?
「感じ方」は人それぞれだけど…
かつて、僕の知り合いから
と聞かれたことがあります。
これについては、必ずしも間違いとはいえません。
というのも、『感度』というもの自体が「その人の感じ方」の問題だからです。
キ●●クを見て「超かっこいい!」という人もいれば、
「それほどでもなくない?福●●治のほうがはるかにイイわ」と感じる人もいるでしょう。
感じ方なんて人によって異なります。
自転車だって、シャカシャカ漕ぐ遅ギアのほうがわずかな傾斜もわかりやすい、と感じる人もいるかもしれません。
感度というもの自体が究極的には「その人の感じ方」の問題です。
そのため、ローギアの方が感度が良いという人がいても、それはあり得る話です。
ただ、多くの人にとっては、速ギアの重いペダルを漕いでいた方がわずかな傾斜に差し掛かったときに傾斜の存在を体感しやすいでしょう。
また、速ギアで巻き重りのあるリールを巻いていた方が、わずかな抵抗でも巻き重りとなって気づきやすくなるでしょう。
そもそも『感度』の捉え方が異なる可能性もある
あるいは、『感度』そのものの捉え方が、違う視点に立って説明しているのかもしれません。
「ハイギアの方が感度がいい」という人は、ほとんどの場合、巻き上げパワーが劣ることによって感じ取りやすくなる違和感のことを『感度』と説明しています。
でも、「ローギアの方が感度がいい」という人がいるとすれば、それは、まったく別のロジックで『感度』を説明しているかもしれません。
これは、「ローギアの方が感度がいい」という人に、その仕組みを聞いてみなければわかりません。
『感度』の捉え方がそもそも違うなら、ローギアの方が感度がいいというのもあり得る話です。
ただ、ローギアの方が感度がいいという仕組みについて、納得できるような説明を僕は聞いたことがありません。
ほとんどの場合、「そう感じるから」という結論だけです。
なので、詳しいことはちょっとわかりません。
結局、どのギアを選べばいい?
なるべく速いギア比の方がイイ
最終的にどのギアを選べばいいか?ということですが…
感度ということに限っていえば、速ギアになればなるほど、負荷や抵抗を『巻き重り』という形で感じやすくなります。
昔から「シーバスは流れを釣れ!」といわれるほど、シーバスフィッシングにとって流れの変化に気づくというのは重要なことです。
なので、巻き重りしやすいリールであればあるほど、水中の変化が『感度』(=巻き重り)として顕在化しやすくなります。
でも、初動の巻き重りは煩わしい
他方で、投げて巻いて…を繰り返すルアーフィッシングにおいて
初動の巻き重りが気になって仕方ない
というのはかなり致命的な問題です。
キャストのたびにリールを巻き始めるときの巻き重りが気になるわけですから。
ルアーフィッシングにおいて、初動の巻き重りを無視するのは得策ではありません。
巻き重りが気にならない程度のハイギアを選ぶ
そこで、ビギナーとしては、ギア比の違うリールを巻き比べたうえで
巻き重りが気にならない程度のハイギア(速ギア)
を選ぶと良いでしょう。
初動の巻き重りが気にならないのであれば、エクストラハイギアでいいでしょう。
エクストラハイギアだと初動の巻き重りが気になる、というのであれば、ハイギアに落としてみるといいでしょう。
よく使うルアーも考慮する
リールの回転運動の障害になるのは、初動の巻き重りだけではありません。
ルアーの受ける水の抵抗というのもリールの回転運動の障害になります。
抵抗の大きなルアーほど、ハンドルを回す手にも、ロッドを持つ手にも負担が掛かります。
そのため、アクションの大きい鉄板バイブレーションや、ブレードの大きなスピンテールジグを中心に釣りをする人の場合は要注意です。
実釣のときには、釣具屋でリールを空回ししたとき以上の負荷を感じることになります。
リールのギア比は煩わしくない程度のハイギアがおすすめ!
リールのギア比の仕組みは、自転車や自動車と同じです。
自転車の遅ギアは、軽い力でペダルを漕げますが、ほんのわずかの傾斜の坂道には気づきにくいです。
ローギアのリールも、軽い力でハンドルを回せますが、巻き上げパワーがあるため、わずかな流れの変化や小さなゴミには気づきにくいです。
自転車の速ギアは、ペダルを漕ぐのに力が必要ですが、わずかな傾斜の坂道でも足に負荷が掛かるため、道路に傾斜があることに気づきやすいです。
ハイギアのリールも、初動に力が必要ですが、わずかな変化も『巻き重り』という形になって捉えやすくなります。
これが『感度』の正体です。
シーバスフィッシングのように「流れを釣る」という釣りでは、ギアは速いほうがメリットが大きいです。
しかし、リールのギア比は自転車のように変速構造ではありません。
そのため、リールを回したときの初動の巻き重りが気になる場合、そのリールを使い続ける限り、巻き重りを避けることはできません。
そこで、リールを選ぶときは、リールを回したときの巻き重りが気にならない程度のもので、ギア比の速いタイプを選びましょう。