
ロッドにある程度興味をもってくると、ロッドの「弾性」っていう言葉を耳にするようになります。
「高性能な高弾性ロッド!」というような感じで。
一昔前は高弾性ロッドは高価で扱いにくいということもあって入門者にはオススメされませんでした。
でも、近年はずいぶんと価格が落ち着いてきたこともあり「初心者であっても高弾性ロッドを使うべき!」というメディアの紹介もあります。
一理あるとは思いますが「ビギナーでも高弾性ロッドを使うべき!」といえるためには、高弾性ロッドの特性を理解している必要があります。
このページでは、聞いたことあるけど、わかるようでわからない「ロッドの弾性」についてご紹介します。
ロッドの素材(原料)

釣り竿は、炭素繊維で織ったカーボン布(カーボンシート)を鉄芯にクルクルと巻き付けて、焼き固めて作られます。
つまり、ロッドの原料はカーボンです。
カーボンは軽量で強度・復元力が高いため、日常生活の様々な場面で用いられます。
最近でいえば、マラソン界を席巻するナイキの厚底シューズ。
箱根駅伝ではほとんどのランナーがピンク色の厚底シューズを履いていたことで話題になりました。
あのナイキの厚底シューズは、靴底に反発力・復元力の高いカーボン素材が使われています。
ゴルフクラブのシャフトにもカーボンが使われます。
軽量・高反発・高強度が求められる素材にはカーボンが使われることがとても多いです。
カーボンの弾性(トン数)とは?
釣り業界ではロッドが曲がって戻るときの復元力・反発力を説明するときに『弾性』という言葉が使われます。

という感じで。
ロッドの弾性を数値化するときに使われるのが『トン(t)』という単位です。
このカーボンのトン数というのは、具体的には↓こういう意味です。
1mm×1mmのカーボン布を2mm×2mmの大きさに引き伸ばすのに20tの力が必要である場合、そのカーボン布を20tカーボンと呼びます。
2mm×2mmに引き伸ばすのに40tの力が必要である場合、そのカーボン布を40tカーボンと呼びます。
つぎに、20tカーボンと40tカーボンの具体的な違いをみてみます。
② 40tカーボンシート
①の20tカーボンは、シートを2倍に引き伸ばすのに20tの力が必要です。
②の40tカーボンは、シートを2倍に引き伸ばすのに40tの力が必要です。
②のカーボンの方がシートを2倍に引き伸ばすためにより大きな力が必要になります。
これがどういうことを意味しているかというと
ということ。
元に戻ろうとする復元力が②の方が強いため、2倍に引き伸ばすためにより大きな力が必要になるということです。
つまり、カーボンはトン数が大きくなるほど素材の持つ復元力・反発力が大きくなるということです。
カーボンはトン数が大きいほど高弾性、トン数が小さいほど低弾性と表現されます。
復元力の大きい高弾性カーボン素材を使用して作られた反発力の強いロッドを高弾性ロッドと呼びます。
高弾性ロッドが折れやすい理由
高弾性ロッドは中・低弾性ロッドに比べて折れやすいといわれることがあります。
確かに高弾性ロッドは中・低弾性ロッドと比べると折れやすいですが、折れやすい理由を理解して適切に扱えば、高弾性ロッドといってもまったく恐れる必要はありません。
そこで、高弾性ロッドが折れやすい理由を知る前に、まずはロッドが製造される過程を簡単にご紹介します。
そもそもロッドの製造方法は?
ロッドの原料となるカーボンは、正確にはカーボン・プリプレグと呼ばれるものを使います。
カーボンプリプレグとは、カーボン糸で織ったカーボン布に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を染み込ませた状態のシート状のもののことです。
このシート状のカーボン布を棒状の鉄芯にクルクルと巻き付けて、焼き固めます。

熱を加えることによってカーボンプリプレグに含まれるエポキシ樹脂が固まるので、これによって釣り竿の形が完成します。
ロッドの製造方法は、おおまかにはこういうイメージです。
弾性によって鉄芯に巻きつける回数が異なる
ここから本題。
20tカーボンを6周ほど鉄芯に巻いて作った釣り竿と、40tカーボンを6周ほど巻いて作った釣り竿は同じ硬さなのか?
…と聞かれると、答えはNOです。
20tカーボンと40tカーボンを同じ回数で鉄芯に巻いてしまうと、40tカーボンで巻いたロッドの方がガチガチのロッドになってしまいます。
なぜなら、40tカーボンの方が20tカーボンよりも復元力・反発力が2倍強いからです。
なので、40tカーボン素材を使って20tカーボンのロッドと同じ硬さのロッドを作ろう思うと、40tカーボンは鉄芯に巻きつける量を20tカーボンの半分(3周)にしなければなりません。
※6周巻とか3周巻って数字は大雑把なイメージです。
言い方を変えると、高弾性ロッドは低弾性ロッドよりも巻かれているカーボン厚みが薄巻きになっているということです(←超重要)。
高弾性ロッドは引張強度が弱い
こちら↓は東レのカーボンプリプレグの物性表の抜粋です。
一番右の欄に着目すると引張強度と引張弾性率という数字があります。
上から順に30tカーボン・38.5t(40t)カーボン・60tカーボンです。
この物性表をみると、弾性率の高いプリプレグほど引張強度が弱くなっていることがわかります。
30tカーボンから順に600kgf/mm2→450kgf/mm2→390kgf/mm2となっています。
つまり、高弾性カーボンは低弾性カーボンよりも引張強度が弱いことがわかります。
ただし、その逆は基本的にはありません。高弾性カーボンなのに引張強度が高いプリプレグはありません。
詳しくはコチラをご覧ください。
薄巻きだから傷に弱く、粘りも少なく、折れやすい
高弾性カーボンロッドは、低弾性カーボンロッドよりもプリプレグを少ない巻き数で薄く巻いて作ります。高弾性カーボンは復元力の高い素材なので、低弾性カーボンと同じ硬さに仕上げようと思うと、巻き数を減らして薄巻きにしなければガチガチのロッドになってしまいます。
高弾性ロッドは低弾性ロッドよりもブランクスの厚みが薄いので、低弾性ロッドであれば致命傷にならないような傷でも、高弾性ロッドでは致命傷になり得ます。
また、高弾性ロッドは素材の引張強度そのものが低弾性ロッドより弱いので、低弾性ロッドのように粘る前に折れてしまいます。
これらの理由から、高弾性ロッドは低弾性ロッドよりも折れやすいといわれます。
高弾性ロッドにはメリットもある
一般的に低弾性ロッドよりも折れやすいといわれる高弾性ロッドですが、高弾性カーボンを使ってロッドを作るメリットも存在します。
◆軽量
◆高感度
高弾性ロッドは曲がったあとに戻ろうとする復元力・反発力の強いロッドです。
この復元力・反発力のおかげで、キャスト時にロッドが曲がってから戻るまでの動作の間にロッドのブレが生じにくくなるというメリットがあります。
バックスイング~キャストまでの一連の動作の中でロッドに余計なブレが生じにくいので、バックスイング~キャストまでの一連の動作をとてもスムーズに行うことができます。
このキャスト時の一連の動作におけるブレの少なさを「キャストフィールがシャープ」と表現します。
また、上で述べたとおり、高弾性ロッドは低弾性ロッドよりも使われるカーボンの量が少ない(巻き数が少ない)です。
そのため、高弾性ロッドは低弾性ロッドよりもブランクスの重さが軽くなります。
※その分、傷には弱い
さらに、巻き数が少なく復元力の強い高弾性ロッドは、低弾性ロッドよりも、ロッドが受信した振動が竿先から手元までスムーズに伝達されることになります。
つまり、とても感度に優れた高感度のロッドになります。
折れやすい以外の高弾性ロッドのデメリット
高弾性ロッドには、折れやすいということ以外にもデメリットがあります。
高弾性ロッドは復元力・反発力が強いため、キャスト時のスイングスピードが遅いと上手く投げられないというデメリットがあります。
これはどいうことかというと…
高弾性ロッドでルアーをキャストする場合、ロッドの復元力・反発力が高いので、竿先が曲がってから元に戻ってくるまでの時間がとても短いです。(竿先の戻りが速い)
なので、ゆったりとしたフォームでゆっくり投げようとすると、ロッドの復元力・反発力を上手く利用することができなくなってしまいます。
言葉で説明するのが難しいですが、テイクバック~キャストまでスピーディーにキャストしないと、初めに曲がった竿先だけが先に戻ってきて、釣り人のキャストの瞬間のタイミングとロッドの戻りのタイミングが上手く合わなくて投げづらくなってしまいます。
高弾性と中・低弾性の区別
釣り業界に区別基準はない
高弾性ロッドと中・低弾性ロッドは具体的に何t(トン)くらいの伸び率で区別されるのか?
この点については、釣り業界に明確な区別基準はありません。
炭素繊維協会の区別基準はある
日本には炭素繊維協会(ジャパン・カーボンファイバー・マニュファクチャーズ・アソシエイション)という炭素繊維業界の発展に貢献することを目的とした団体があります。
この協会のウェブサイトにはギガパスカル(GPa)で表示された弾性率の区別が掲載されています。
正直なところギガパスカル(GPa)とトンフォース(tf)の違いが僕にはさっぱりなのですが、興味がある人は参考にしてみてください。
一応の目安
区別基準がないとはいえ、今後インターネットや釣り雑誌などのメディアで情報を得ていくうえでは一応の目安があった方が良いので、僕が独断で区別基準を下記のように設定しておきます。
中弾性 30~35t
高弾性 40~60t
高弾性ロッドを折らないためには?
最近ではビギナーに対しても高弾性ロッドが勧められることが増えてきました。
個人的にはロッド折れに気を使わずに釣りをできた方がいいと思っているのでビギナーに高弾性ロッドは勧めませんが、とはいえ、キチンとした取り扱いをすればそれほどロッド折れを心配する必要はありません。
そこで、高弾性ロッドを折らないための注意点をご紹介します。
ロッドを地面や壁に直置きしない
高弾性ロッドはとにかく傷に弱いロッドです。
カーボンシートが薄巻きに作られているので、少しの傷でも致命傷になり得ます。
そこで、ロッドを地面に直置きしたり、壁に立て掛けたりしないようにしましょう。
SNSではよくロッドを地面に置いて魚と並べて写真を撮っているシーンを見かけますが、ロッドにとっては百害あって一利なしです。
あとでロッドが折れた時に何も言い訳できません。
また、やむを得ず壁や手すりに立て掛ける場合には、くれぐれもロッドが倒れないように注意しましょう。
ロッドの移動に気をつける
ロッドを剥き出しに保管している、アングラーが把握できないところで傷が入ることがあります。
また、保管はともかくとして、ロッドを保管場所から車へ持ち込む場合や、車から現場へ持ち込む場合などは傷が入りやすい状況です。
ロッドを移動する場合はなるべくロッドケース(竿袋)に入れて移動させましょう。
無理な曲げ方をしない
ロッドには、ロッドが本来的に持っているそのロッド特有の曲がり方があります。これをロッドの『アクション』と呼んでいます。
ロッドの無理な曲げ方というのは、ロッドのアクションにそぐわない曲げ方のことです。
ロッドは、ロッドのアクションに沿った曲がり方をしている限り、高弾性ロッドといえどもそう簡単には折れません。
でも、アクションにそぐわない曲がり方をすると簡単に折れてしまうことがあります。
たとえばロッドが「し」の字になるような曲がり方の場合です。
ちなみに、ロッドを無理な曲げ方をしないというのはあらゆる場面で問題になります。
まずはキャスト。ロッドの曲がり方は竿の真ん中くらいから曲がるのに、竿先だけで重いものを「ピュッ」と投げた場合、竿先だけに必要以上に負荷が掛かるので簡単に折れることがあります。
次にファイト。ファイト中に竿を立て過ぎると竿が「し」の字に曲がってしまうことがあります。磯竿であれば竿が「し」の字に曲がってもそれほど問題はありませんが、ルアーロッドは竿が「し」の字に曲がることが想定されたロッドはそんなにありません。想定された竿のアクションに反して「し」の字に曲がると竿は簡単に折れてしまうことがあります。
そしてランディング。ランディングのときは魚が足元まで寄ってきているので、ロッドを立ててしまいがちになります。魚が足元にいるのにロッドを立ててしまうと、ロッドが「し」の字になりやすい典型的なシチュエーションといえます。
まとめ
ロッドはアングラーの右腕になるべき道具なので、ガンガン使いこなせてこそ効果を発揮します。
腫れものを扱うようにロッドを扱っていても釣りは面白くありません。釣りが上手くもなりません。
なので、(個人的には)ビギナーには中弾性ロッドを使って存分に釣りを楽しんでほしいというのが率直な感想です。
ただ、高弾性ロッドには高弾性ロッドのメリットもあります。
ロッドの軽さや高感度というのはビギナーにとってもとてつもないメリットになります。
高弾性ロッドといえども適切な使い方をすればそう簡単に折れることはありません。
高弾性ロッドが折れやすい原因を理解して、高弾性ロッドの適切な使い方を心掛けましょう。
追記
高弾性ロッドを無理な曲げ方をしないためには、ロッドのアクション(曲がり方)を知る必要があります。
ロッドのアクションを知るにはロッドにオモリ(ペットボトル)をぶら下げて実際にロッドを曲げてみます。
具体的には、1リットルくらいのペットボトルにラインを結んで、ロッドを40~45°くらいの位置でキープします。
ロッドを40~45°くらいの位置でキープしたときにペットボトルが待ち上がるか持ち上がらないか…ギリギリのところでラインを調整します。
このとき曲がっているロッドの曲がり方が、そのロッドのアクションということになります。
※ロッドのアクションのイメージ
この方法でロッドのアクションをあらかじめ把握しておいて、ファイト中やランディング時になるべくそのアクションよりも「し」の字に近づかないように気をつけます。