【ゼロから始める】シーバスはどうやってルアーを発見するの?【第13回】

第12回までの記事でルアーの基本的な種類や特徴、使い方をご紹介しました。

このページでは、魚が水中においてどのようにルアーを感知・認識しているのか?

魚がルアーを見つける方法」についてご紹介します。

なお、この記事では魚類学分野の研究成果をたびたびご紹介しています。

もっと詳しく知りたいというときは、下記の書籍を参考にしてみてください。

この書籍に、詳しい実験方法や、より専門的な内容に踏み込んだ記述があります。

魚はどうやってルアーの動きを感知・認識するのか?

「魚を知る」ことの重要性

無数にあるルアーの中から最適なルアーを選ぶために、「魚を知る」ということはとても有用です。

  • 真っ暗な海の中で、魚はどうやってルアーを発見しているのか?
  • 魚がルアーを発見できる距離はどれくらいか?
  • ルアーを偽物だと認識できる能力がどれくらい優れているのか?

このような情報はアングラーがルアーを選ぶためにはとても参考になります。

ルアーを感知するための器官

ルアーでシーバスを釣るためには、シーバスにルアーを見つけてもらうことが絶対条件です。

どれだけ精巧につくられたルアーでも、シーバスに見つけてもらえなければただのプラスチックの塊です。

ルアーは、シーバスに見つけてもらうことでルアーとしての第一歩を踏み出すことになります。

では、シーバスはどうやってルアーを感知しているのか?

魚がルアーの動きを感知できる器官は、大きく分けて3種類あります。

① 側線
② 内耳(耳)
③ 眼(視覚)

このうち、釣り人の経験則に基づいた俗説によれば

魚は側線で小魚が作り出す水の振動(波動)を感知

しているそうです。

側線とは

側線とは、魚の側面にある、水中で水圧や水流の変化を感じとるための器官です。

ルアーがアクションすることで発生する水の振動をシーバスは側線で感知して、ルアーに惹き付けられ、ルアーをエサだと思って食いついてくる

というのが、一般的に語られている俗説です。

僕がシーバスフィッシングを始めた25年くらい前は、すでにこのように説明されていました。

側線で感知できる振動の範囲の限界

釣り人の通説的な見解となっているのは

側線によるルアーの感知

です。

しかし、この点については、魚類学者の中には下記の理由から疑問を投げかける人もいます。

一つめの理由は水中で伝わる振動の範囲の問題です。

水中でルアーが動くと、水の粒子に動きが発生します。この水の粒子の動きが、さらに周りの水の粒子を動かします。この連続によって水の粒子の動きが伝播していきます(振動の発生)。

では、この水の振動はどれくらい広がるのか?

実は、水の振動はルアーからごくわずかな範囲にしか広がりません。ルアーから2mや3m離れた先まで水の振動が伝わるわけではありません。

また、側線の感知能力に優れた魚であっても、側線で感知できる範囲は体長の1~1.5倍ほどといわれています。

自分の体から4mも5mも離れた振動が側線で感知できるわけではありません。

つまり

側線は、非常に感度に優れた振動感覚器で、わずかな水流の変化も感知できる。
しかし、側線が情報を感知できる範囲は、魚の体からごく近い範囲に限られる。

ということです。

二つめの理由が遊泳中には側線の機能が大きく低下するという問題です。

水の振動というのはルアーやエサとなる小魚だけから発生するわけではありません。

捕食する側の魚(シーバス)であっても、自分が泳ぐことでやはり水の振動が発生します。

そうすると、捕食する側の魚は

「自分が泳ぐことによって発生した水の振動を、自分の側線で感知する」

という無意味な状況に直面することになります。

そこで、『自分が起こした水の振動』という必要のない情報を遮断するために

遊泳中には側線の機能を低下させる仕組み

が採用されているそうです。

以上のことを踏まえると、側線がルアーの動きを感知できるのは

自分が静止しているときで、かつ、自分の近くでルアーが動いた場合に限られる

ということです。

内耳(耳)による音の感知

ルアーが動くとルアーの周りの水の粒子が動くというのは感覚的に想像しやすいです。

さらに、ルアーが動くことで起こる物理的変化がもう一つあります。

それが『』です。

ルアーが一定の繰り返し運動をすると、ルアー周辺の圧力変化が周期的になって、それが魚には『音』となって感じられるようになるそうです。

ショーカラ
「ルアーから発生する音」ではなく、ルアーが動くことによってルアー周辺の水が音を発生させるということです
ショーカラ
はっきりいって、この点については、僕は理解力も想像力も及びません。
そのため、「そういうもんなのか」という程度の認識でしかありません…

そして、水中で発生する音というのは空気中の4.5倍の速度で伝播します。空気中の音よりも遠くまで届きます。

ただ、魚の内耳で感知できる周波数は100~2000ヘルツといわれています。この範囲外の音は聞こえにくいそうです。

ところが、ルアーの振動によって生じる水の音の周波数は100ヘルツには遠く及びません。

そのため、ルアーの振動から発生する『水の音』を内耳で感知することはできません

ところで、魚の内耳で感知できる周波数のラトル音はどうでしょうか?

この点については、魚に聞こえにくい周波数のラトル音を、魚が聞き取れる周波数に改善したら釣り人の評価が上がった、という実験結果があるそうです。

つまり、魚が聞きとれる周波数のラトル音であれば、魚の内耳で感知することができる可能性があるということです。

ただ、これはあくまで「釣り人からの評価」の問題であって、実際に魚がラトル音に反応していることを示す実験ではありません

『視覚』によるルアーの感知

側線も内耳も、「ルアーの動きによって発生する『振動』や『音』」を感知する器官としてはかなり心許ないといえます。

では、側線でも内耳でもなければ、魚は直接ルアーを目で見て感知していると考えることはできないでしょうか?

この点について、かつては、「魚は近視である」とか「魚は色盲である」という見解が唱えられていました。

しかし、魚の視力の問題も色の識別能力の問題も、現在ではずいぶんと見解が変わってきています。

そこで、以下では、「魚の目のよさ」についてご紹介します。

魚は「目がいい」

「魚は目がいい」といっても、遠くの物がよく見える…という単純な話ではありません。

ここではルアーフィッシングにおいて有用と思われる

・コントラスト識別能力
・視力
・形状識別能力
・色の識別能力

についてご紹介します。

コントラスト識別能力はかなり高い

コントラスト識別能力というのは、水中の背景に溶け込んだ物を識別する能力のことです。

…といっても、かなりわかりにくいですよね。

たとえば、ナイロンやフロロが水中で見えにくくなるのは、ラインが水中の背景に溶け込んで背景と一体となるためです。これはコントラストが低い状態です。

フロロは、ナイロン以上に水中でのコントラストが低くなります。つまり、フロロの方が水中では見えにくくなります。

逆に、物と背景のコントラストが鮮明になるほど、水中の物は見えやすくなります。

そして、コントラストを識別する能力が高ければ、たとえ物が背景に溶け込んでも(コントラストが低くても)、水中にある物は見えるということです。

では、魚のコントラスト識別能力はどれくらいでしょうか?

実は、魚のコントラスト識別能力はとても高く、ヒトの50倍ほどあるそうです。

ショーカラ
もちろん、魚種によって程度の差はあるでしょうが

つまり、ヒトが水中にあるラインを見たときよりも、魚は、はるかにラインがよく見えているということです。

『視力』は低いが、遠くの物も鮮明に見える

魚はどれくらい遠くの物が鮮明に見えるのか?

つまり、ヒトでいうと、どれくらい『視力』がいいのか?

これは、魚が、どれくらい遠く離れたルアーを認識できるか、ということに関わってきます。

この点についてヒトと同じ物差しで魚の視力を測定すると、魚の『視力』は低いそうです。

ショーカラ
シーバスで0.12ほどです。
僕よりは視力がいいけどね!

ただ、そもそもヒトと魚とでは、眼の遠近調節方法がまったく異なります。

ヒトでいう『近視』とか『遠視』という概念は魚には当てはまらないそうです。

そのため『視力』が低いから遠くの物が鮮明に見えないということはありません

ヒト基準の『視力』という概念に当てはめると魚の視力は低いといえます。

しかし、遠くの物でも鮮明に結像するための魚の独自の遠近調節方法があるため、魚は遠くの物でも鮮明に見えるそうです。

形を識別する能力は抜群

形状識別能力というのは、端的に、

偽物であるルアーと本物の小魚を見分ける能力

ということができるかもしれません。

この形状識別能力というのは魚は抜群に優れています

実験によれば、ヒトがまったく識別できない二つの図形の違いを、魚は正確に識別できたそうです。

つまり、ヒトに識別できる程度のルアーのボディサイズやボディ形状の違いなどは、魚は容易に識別できると考えて問題はないでしょう。

魚はルアーの色も識別できる

かつて、「魚は色盲である」と考えられていました。もちろん、想像や経験というあいまいなものではなく、研究に基づいた結論です。

ところが、実験方法の見直しや進歩などにより、現在では

魚は色を識別できる

という考え方が一般的です。

さらにいえば、ヒトは色を識別するための視細胞(錐体)が3種類であるのに対し、多くの魚の視細胞は4種類あります。

このことから

ヒトが『色』として認識できない色も魚には見えている

という見解さえあります。

ショーカラ
つまり、
魚が見る世界はヒトが見る世界よりもカラフルに見えている
ということです

ヒトよりも魚のほうが色の識別能力が優れているかどうかはともかく…

魚が色を識別できるということは理解しておく必要があります。

以上で見てきたとおり、魚の『視覚』というのはとても優れています。

そのため、魚は『視覚』によってルアーを感知しているという可能性を無視するべきではありません。

釣り人の経験則と学術的な研究成果の隔たりを埋めてみよう!

ルアーアングラーの間では、古くから「魚は側線によってルアーを感知している」と信じ込まれています。

一方で、側線の機能や構造をよく知る魚類学者からは、「それは側線の能力を過信している」といわれます。

どちらが正しくて、どちらが誤りか?

シロクロをつける必要はありません。

むしろ、釣り人としては、なぜそのような隔たりが生まれるのか?ということを考えてみるのも面白いでしょう。

たとえば

「魚は側線によってルアーを感知している」という俗説が、なぜ釣り人の間では支配的なのか?
もしかしたら、「魚は近視である」とか「魚は色盲である」という考えが一般的だった時代に登場した「側線によるルアーの感知」という考え方が、惰性で今でも残っているだけじゃないか?
それとも、「側線によるルアーの感知」という現象は、何らかのかたちで釣り人が体感できることなのか?

とか。

こんな感じで考えていると、より一層ルアー沼にハマることができます笑

釣り人の経験則というのは、あらゆる可能性を検討した結果として得られた結論、というものではありません。

そのため、自分の信じたい方向へ向かうことが往々にしてあります。

また、学術的な研究の成果も絶対ではありません。

むしろ、釣り人や漁師の経験則を端緒として結論が180°覆ることがあります。

釣り人としては、どちらかに結論を決めるのではなく、いずれの可能性も考えたうえで、ルアー選択に活かしていけば、ルアーの選択に厚みや深みが生まれます。

いままで釣り人の経験則だけでルアーを選んでいたのであれば、学術的な見解にも目を向けてみると面白いでしょう。

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