「釣り場の未来を考える」第1回では、ライセンス制について考えました。
◆中身のない箱の青写真を描くよりも、釣り人・釣具店・釣具メーカーなどの釣り業界にできる具体的な取り組みをまずは進める方が現実的であること
についてご紹介しました。
このページでは、釣り業界にできる具体的な取り組みのうち、ゴミ問題についてご紹介します。
釣り場のゴミ問題の深刻化
釣り場における釣り人由来のゴミは、最近になって捨てられるようになったわけではありません。
昔からあります。
それでも、釣り人である僕の感覚からしても
と感じます。
その理由の一つに、SNSの普及によって人気の釣り場に人が集まりやすくなったことがあります。
そもそも、釣り人の中でも釣り場にゴミを捨てていくのは一部の人だと考えられます。
でも、釣り人が入れ替わりで1日30人ちょっと訪れる人気の釣り場であれば、毎日1人くらいはゴミを捨てる人がいるわけです。
釣り人が集中する釣り場であればあるほど、ゴミが捨てられる可能性は高くなります。
他にも要因はあるでしょうが、感覚的にも「ゴミが増えたなぁ」というのはあります。
ゴミを捨てる人が100%悪い
第1回の記事でも書きましたが、一般論として、釣り人全般が悪いわけではありません。
もちろん、SNSで釣り場が判別できるような投稿をした人が悪いわけでもありません。
SNSで釣り場が晒されたため、そこにゴミを捨てに来た人がいるわけではありません。
あくまで、釣り人の一部に「あえてゴミを捨てる人」がいて、100%その人に問題があるわけです。
釣り人の間では「ライセンス制にしろ!」だの「SNSでポイントを晒すな!」だの、極端な話になることがあります。
たしかに、国を鎖すことで外国との関わりを排除しようとした鎖国制度のように、「元を断つ」という考え方もあり得るところです。
入り口を狭めることで、釣りというレジャーに真摯に向き合う意志のない人たちをふるいに掛けることができるかもしれません。
しかし、問題児である一部の人のために、大多数の一般アングラーに対する(公の)制約が大きくなるようであっては困ります。
そこで、ゴミを捨てる人が100%悪いこと、しかし、残念ながらそういう人が一定数いることを前提に、大多数の釣り人にとって不利益のより小さい方法を模索する必要があります。
下記では、ルアーアングラーの視点から、ルアーのパッケージゴミを減らす方法について考えます。
ルアーのパッケージを釣り場に持ち込ませない工夫が必要
そもそもルアーのパッケージを釣り場に持ち込むことが問題
ルアーのパッケージゴミが捨てられる大きな要因はパッケージのまま釣り場にルアーを持ち込む人がいることです。
パッケージのまま釣り場にルアーを持ち込んでしまうと、故意であれ過失であれパッケージが釣り場に放置されるリスクが生まれます。
自分では捨てるつもりはなくても、パッケージが風で飛ばされてしまった…
ということは十分にあり得ます。
すぐに拾える場所であればパッケージを拾う人はいるでしょう。
でも、パッケージが海に落ちたり遠くまで飛ばされてしまうと、わざわざ取りに行く人はなかなかに少ないと思われます。
そのため、パッケージゴミを削減するための根本的な解決手段としては、ルアーのパッケージを釣り場に持ち込ませないための習慣の構築が求められます。
メーカーによる取り組み
一部のソルトルアーメーカーは、釣り場へのルアーパッケージの持ち込みを抑制するために、パッケージの台紙に応募券をくっつけて、プレゼント企画を実施しているメーカーもありました。
これは、パッケージを釣り場で開封することを抑制することについて、一定の効果が見込まれます。
ただ、この場合、パッケージを釣り場に持ち込んだとしても、パッケージを開封するときに台紙を抜き取ることで、プレゼント企画に応募できてしまいます。
アイディアとしては面白いですが、効果は限定的だと考えられます。
パッケージが釣り場に持ち込まれる根本的な原因
そもそも、なぜルアーのパッケージが釣り場に持ち込まれるのか?
それは
ルアーにフックが付いているから
です。
パッケージからルアーを出してスナップに接続すれば、そのままルアーとして使えるからです。
これは、メーカーも当然わかっています。
話はやや逸れますが、かつて、カルティバのST-46というフックがソルトルアーメーカーの間で一世を風靡しました。
価格を抑えつつも、センターバランス・針先の鋭さ・強度・錆びにくさを兼ね備えたフックとして、各ルアーメーカーがこぞってルアーの標準フックとして採用していました。
昔のルアーのパッケージには「ST-46標準搭載」という記載のあるルアーもたくさんありました。
そして、ST-46を搭載したルアーの売りの一つは「パッケージから出してそのまま使える」というものでした。
つまり、裏を返せば、優れたフックが標準搭載されているルアーは、パッケージごと釣り場に持ち込まれるリスクがあるということに他ならないということです。
反対に、パッケージから出してもすぐには使えない状態でルアーが売られていれば、ルアーがパッケージのまま釣り場に持ち込まれるという事態はかなり減らすことができる、と考えられます。
ルアーがフック付きで売られる理由
パッケージから出してそのまま使うため
ルアーがフック付で売られている最大の理由はパッケージから出してそのまま使えるようにするためです。
このお手軽さこそがルアーにフックを付けて売る理由です。
そして、皮肉なことに、釣り場にルアーのパッケージが持ち込まれる最大の原因にもなっているのです。
フックなしではルアーが売れなくなる
たとえば、ほとんどのメーカーのルアーはフック付で売られているのに、A社のルアーはフックがない状態で売られていたとします。
釣りに行く前に釣具屋に立ち寄ってルアーを補充しようとするアングラーは、A社のルアーを買うことは間違いなく躊躇するはずです。
釣り場でフックを付けることを苦にしないガチ勢であればまったく問題ないでしょう。
しかし、大多数のアングラーは、釣り場に交換用フックを持ち込むことはありません。
そうすると、フックがない状態で売られているA社のルアーは確実に敬遠されます。
ルアーメーカーは、フックが付いているからパッケージごと釣り場に持ち込まれることがわかっていながら、フック付で売らなければならない営業上の理由があるのです。
フック付ルアーが販売方法としては圧倒的にスタンダード
(おそらく)世界中、どこの国を見ても、ルアー(プラグ)がフック無しで売られている国はありません。
ルアーにはフックが付いている状態で売られているのがごくごく普通の状態です。
もし、フックのない状態でルアーが売られることになれば、相当特殊なケースになるでしょう。
フックの無い状態でルアーを売るためには?
繰り返しになりますが、フックの無い状態でルアーが売られていれば、パッケージごとルアーが釣り場に持ち込まれることはかなり減るでしょう。
普通は、自宅でパッケージから出して、フックを付けてからルアーを釣り場に持ち込むことになります。
釣り場でフックを付けることをいとわないガチ勢でない限り、フックの無いルアーがパッケージごと釣り場に持ち込まれる事態というのはなかなか想像できません。
しかし、他方で、上記のとおり、ルアーがフック付で売られるのには(一方的な)理由があります。
そこで、メーカーの事情も考慮したうえで、どうすればフックが無い状態でルアーが売られるようになるのか?について考える必要があります。
全メーカーが足並み揃えてフックのない状態でルアーを販売する
特定のメーカー(たとえばA社)が単独でフック無しにしたところで、他のメーカーにユーザーが流れて、それでおしまいです。
ユーザー(釣り人)としては、フック付の使い勝手の良いルアーを選ぶようになるだけです。
だからこそメーカーは、フックが付いていることが問題であることをわかっていながら、フック無しの状態で売るわけにはいかないのです。
逆に、全てのメーカーがフック無しの状態でルアーを売るようになれば、フックの有無でルアーを選ぶことはなくなります。
そのため、フックの無い状態でルアーを売るためには、全メーカーが足並み揃えてフック無しの状態で売る必要があるでしょう。
釣具屋がフックを取り付けるシステムを構築する
全メーカーがフック無しの状態でルアーを売るようになった場合、釣りに行く前にルアーを補充するアングラーが置いてけぼりになってしまいます。
自分でいつでもフックが取り付けられる準備をしておくことを習慣化する、という選択肢もあり得ます。
でも、さすがにそれは面倒でしょう。
そこで、釣りに行く前にルアーを補充する人のために、釣具店がフック料金(+α)を取ってバラ売りのフックを取り付けるサービスを構築する方法が考えられます。
・針メーカーはルアーメーカーに卸していたフックを釣具屋に卸す。
・釣具店は、そのまま釣りに行く人のために、ルアーをパッケージから出して有料フックを取り付ける。
・そのまま釣りに行くわけではない客は、自分でフックを取り付けるのを習慣化する。
という感じで、釣り業界の現場にいる人たちが、それぞれの立場から妥協できる範囲で新たなシステムを構築することは決して不可能ではないでしょう。
フック無しの状態でルアーが売られている国なんてほかにないけど?
国によって状況は異なる
上記のとおり、「ルアー(プラグ)はフックが付いた状態で売られているものだ」というのは、ワールドスタンダードでしょう。
その点では、確かに、ルアーにフックが付いてないのが当たり前になるというのは違和感を覚えるところです。
しかし、釣りの制度や罰則の厳しさというのは国によって異なります。
諸外国から見れば、日本は釣り関連の規制が緩々な国でしょう。
また、パッケージから出してそのまま使えるということが、ルアーフィッシングというジャンルの認知度を向上させ、ルアーフィッシングの裾野を広げる一要因になったことは言うまでもありません。
しかし、今の日本においてルアーフィッシングという釣りのジャンルは十分に市民権を得ているといえるでしょう。
ルアーフィッシングへのハードルをいつまで下げておく必要があるのでしょうか?
このように考えると、大きく分けて、
という二通りのスタンスが考えられるところです。
日本は独自路線を貫いてもいいと思う
現在の日本の法制度を前提にするなら、たとえワールドスタンダードから外れるとしても、日本の現状に合わせればいいのではないでしょうか。
罰則の強化や新制度の導入を魔法の道具のように考える人もいます。
でも、いくらブラックバスのリリース禁止という条例を制定しても、罰則がなければリリースする人もいます。
罰則を規定しても、それが適用されにくいものであれば、やはり結果は同じです。
逆に、罰則の規定や新制度の導入によっても釣り場の環境問題が改善しないのであれば、さらなる規制強化が検討されても不思議ではありません。
『釣り』という子どもの頃から親しんできたレジャーが、大人の事情で、ガチガチの制度の中でしかできなくなるくらいなら、まずは行政に頼らない方法を検討した方がいいでしょう。
釣り業界は釣り人由来のゴミの削減に本腰ではない
上記のとおり
②小売店による販売方法の変更
③ユーザーによるフックの取り付け
というような製造・販売・使用のサイクル全体を抜本的に見直すことができれば、ルアーのパッケージが現場に捨てられる今の状況を改善するのはそれほど難しいことではないでしょう。
しかし、このサイクル全体を見直すことがそもそも簡単ではありません。
そのため、(パッケージゴミの削減が可能だとわかっていても)そこまでやらないというのが実際のところです。
釣り業界だって、一部のマナー違反者のために製造・販売スタイルを抜本的に変えるのは嫌でしょう。
つまり、業界全体でパッケージゴミを減らすために本腰を入れてはいないのです。
可能なことに本腰を入れて取り組みもせずに、ライセンス制という中身のよくわからない箱を設置するかどうか…という話をするのは
という思いにしかなりません。
(もちろん、しっかりとした内容のあるライセンス制の導入に反対しているわけではありません)
釣りのスタイルごとにゴミ削減のための対応が必要
ゴミの種類は釣りのスタイルによって異なる
一言で「釣り人が捨てるゴミ」といっても、その内容は様々です。
折れた釣り竿、壊れたリール、仕掛けやルアーのパッケージ、弁当の容器やペットボトルなど。
これらを一括りにしてゴミを減らす方法を考えることも不可能ではないでしょう。
しかし、ゴミの種類によっては、個別にゴミを減らす方法を検討した方が効果的な場合もあります。
たとえば、アオイソメの入っていたパッケージが釣り場に捨てられていたとします。
住民からすれば「釣り人が捨てたゴミ」にほかなりません。
しかし、あらゆる釣り人がこのゴミの削減に関われるか?といえば、そういうわけではありません。
ルアーフィッシングオンリーのアングラーであれば、釣りエサのパッケージゴミの削減に関わることは通常はありません。
そのため、釣りのスタイルごとに「どんなゴミが多いのか?」を分析したうえで、「そのゴミを減らすためにはどういう製造・販売方法が考えられるか?」を検討する必要があるでしょう。
釣りのスタイルごとにゴミの削減を検討するなんて、正直面倒くさくない?
釣り人であればご存知のとおり、釣りのカテゴリーってめちゃくちゃ多いんですよ。
ってくらい細かく分かれています。
そのため、釣りのスタイルごとにゴミの削減方法を検討しようと思うと、とてつもない労力が必要なように感じてしまいます。
でも、そこはそれほど心配する必要はありません。
釣具メーカーというのはカテゴライズに非常に長けています。
メーカーは釣りのスタイルごとに細分化することが大得意です。
そのため、ゴミの削減に本腰を入れるつもりがあるのであれば、釣りのスタイルごとにゴミの削減を検討すること自体は、釣具メーカーにとってはむしろ得意分野といえるでしょう。
釣りのライフスタイルの見直しが必要
釣り人由来のゴミを減らすために必要なのは、空虚な制度の議論ではありません。
もちろん、中身が定まってくれば『ライセンス制』を検討するのも十分に価値があります。
でも、中身のない箱の議論をしたところで、釣り人由来のゴミを削減することはできません。
では、釣り人由来のゴミを減らすにはどうすればよいのか?
一つには、製造-販売-使用というサイクルを全体を抜本的に見直して、釣具関連のパッケージ等を釣り場に持ち込まないようにする方法が考えられます。
この方法による場合、メーカー・釣具店・釣り人にとってみると、釣りに関するワークスタイル・ライフスタイルを大きく変更する必要があります。
その点では、やや煩わしい方法ともいえます。
しかし、中身のない制度の議論を延々と行って、釣り人由来のゴミ問題が遅々として改善しないのが今の状況です。
そうであるならば、煩わしい方法でも少しずつ取り組んだ方が、業界・住民・環境にとってはプラスになるでしょう。
釣り場の環境改善を立法・行政任せにするのではなく、まずは当事者がゴミを減らす姿勢を見せるべきではないでしょうか。