近年よく耳にするようになった東レのT1100という素材。
ロッドに使われるカーボン素材です。
2021年でいえばメジャークラフトの5Gシリーズのロッドに使用されることが明らかになりました。
でも、我々おっさん世代にはT800とかT1000といわれてもターミネーターしか思い浮かばない!
そこで、このページでは、釣り竿に使われているT1100という謎の素材について、なにがスゲーのかを超短時間で理解できるようにとてつもなくざっくりとまとめてみました。
※内容的に不正確・不十分な説明があるのはご了承ください
釣り竿の原料はカーボン

ほとんどのルアーロッドやジギングロッドはカーボン(炭素繊維)素材で作られています。
ゴルフクラブのシャフトなんかもカーボンで作られているものがあります。
カーボンは軽量で高強度・高復元力のため、日常生活の様々な場面で活用されています。
正確にはカーボンプリプレグという
釣り竿というのは、カーボン繊維で織られた布を、細長い鉄芯にクルクル巻き付けて、焼き固めて作ります。
保育園児がチラシをクルクルと丸めて棒状のようなものを作るのに似ています。
釣り竿の原料となるこのカーボン布は、炭素繊維を織ってできた単なる布ではありません。
カーボン糸で織られた布に、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を染み込ませた状態のものを釣り竿の原料として使います。
この熱硬化性樹脂を含ませた状態のカーボン布をカーボン・プリプレグと呼んでいます。
鉄芯に巻き付けたカーボン・プリプレグに熱を加えることで樹脂が固まって釣り竿が成型されます。
つまり、釣り竿の直接の原料になるのは、カーボン糸やカーボン糸で織った単なるカーボン布ではなく、カーボン糸で織った布に熱硬化性樹脂を含浸させたカーボン・プリプレグです。
T1100はプリプレグのことではない
新製品ロッドの謳い文句に「東レのT1100Gカーボンを使用」なんて書かれると、T1100はプリプレグの種類みたいに思えてしまいます。
でも、T1100というのはプリプレグの種類のことではありません。
T1100というのは東レが製造しているカーボン糸(炭素繊維)の型番です。
こちらは東レのカーボンプリプレグの一覧表です。
ひと言でカーボンプリプレグといっても、実は東レのカーボンプリプレグにはこれだけの種類があります。
カーボンプリプレグ一覧表の一番右の欄に『使用炭素繊維』という欄があります。
この『使用炭素繊維』という欄を見ると、いくつかのプリプレグにT1100GCというカーボン糸(炭素繊維)が使われていることがわかります。
これだけあるカーボンプリプレグのうち、T1100という型番のカーボン糸が使用されているのはこの↓3種類。
この3種類のカーボンプリプレグはどれも、T1100という型番のカーボン糸からカーボン布が作られ、そのカーボン布に熱硬化性樹脂を含浸させてカーボンプリプレグが製造されているということを意味しています。
つまり、T1100というのは、カーボンプリプレグのことではなく、プリプレグの原料となるカーボン糸の型番のことです。
T1100の特性は?
とりあえず、T1100がカーボン糸の型番だということがわかったところで、次にT1100の特性をご紹介します。
高い引張強度
もう一度東レのプリプレグ一覧表を見てもらうと、一覧表の一番右の欄に引張強度というのがあります。
T1100の引張強度は715kgf/mm2となっていて、ほかの炭素繊維と比べるとぶっちぎりの引張強度であることがわかります。
ちなみに、T1100の次に引張強度が強いのがT800という30tカーボン糸で作られたプリプレグです。こちらは600kgf/mm2とされています。
T1100はそれよりもずいぶん引張強度が強いことがわかります!
樹脂にも注目!
さらにもう一度東レのカーボンプリプレグ一覧表の抜粋を見てみます。
左から2番目に『樹脂』と書かれた欄があります。
この2574という樹脂の型番が実はとても重要です。
東レが開発しているのはカーボン製品だけではなく、東レが開発するエポキシ樹脂にも様々な種類のものがあります。また、そのエポキシ樹脂にも一覧表が用意されています。
東レの素材に関するウェブサイトって普通はあんまり見ないですよね(;´・ω・)

このエポキシ樹脂の一覧表をみると、#2574という型番があります。
この型番の一番右側の欄を見るとナノアロイ技術適用と書いてあります。
※ナノアロイ技術については後述
T1100のカーボン糸を使用して作られたカーボン・プリプレグは、3種類とも2574という型番の樹脂が採用されています。
なので、T1100というカーボン糸で作られたプリプレグは、3種類とも樹脂にナノアロイ技術で作られたエポキシ樹脂が含有されているということです。
T1100というカーボン糸を使用して織られたカーボン布に、ナノアロイ技術で作られたエポキシ樹脂(2574)を含浸させて製造されたカーボンプリプレグのことを、釣り業界では『T1100Gカーボン素材』と大雑把に表現しています。
ナノアロイ技術について
一般的なカーボンの特性は?
ナノアロイ技術という謎の用語の説明をする前に、一般的なカーボン素材の特性をご紹介します。
カーボンは軽くて高反発力・高復元力の素材で、日常生活でも様々な場面で活用されています。
最近では、マラソン界を席巻するピンク色が目印のナイキの厚底シューズ。
これも靴底に反発力・復元力の高いカーボン素材が使われています。
その復元力の強さは、釣り業界では『弾性』という言葉を使って紹介されることがあります。
高弾性とか中弾性とか低弾性とか。
カーボンは高弾性になるほど復元力が強く、低弾性ほど復元力が弱いです。この特性は、語感からも何となく想像できると思います。
また、カーボンは高弾性になるほど感度が高く、低弾性になるほど感度が低いといわれます。
反対に、カーボンは高弾性になるほど素材の粘りがなくなって折れやすくなります。低弾性になるほど素材が粘り強くなるといわれます。
この、高復元力・高感度・粘り強さ(高強度)というすべての特性を同時に満たすことはできません。
高復元力・高感度である高弾性カーボンロッドは、粘り強さという点で低弾性カーボンロッドに劣ります。
逆に、粘り強さを求めた低弾性カーボンロッドは、高復元力・高感度という性能は高弾性カーボンロッドにずいぶん劣ります。
このように、カーボンの弾性から生じるロッドの特性は、なにかを求めるとなにかが犠牲になるというトレードオフの関係になっています。
ナノアロイ技術のすごいところ
T1100というカーボン糸を使用して作られるカーボンプリプレグにはすべて、ナノアロイ技術で作られた樹脂が含まれています。
このナノアロイ技術で作られた樹脂はなにがすごいのか?
まぁ、正直僕にもよくわからないんですけどね…:(´◦ω◦`):
東レの説明によれば、ナノアロイ技術で作られた樹脂をT1100のカーボン糸で織られたシートに含有させることで、相反するロッドの特性を両立することができたということらしいです。
つまり、エポキシ樹脂にナノアロイ技術を使うことによって、高復元力・高感度かつ高強度という本来は両立しない特性を両立させたプリプレグが実現できたということです。
ナノアロイ技術については、釣り人が知りたい情報って化学的な説明じゃないと思っているので、これ以上の説明は省略しますが、詳しく知りたい方はコチラ↓をご覧ください。
ナノアロイ技術について(東レウェブサイトより)
まとめ

◆釣り竿の原料になるのはカーボン糸+樹脂でできたカーボン・プリプレグというシート
◆T1100というのは東レのカーボン糸の型番
◆T1100の特性は引張強度がとても強い
◆T1100で作られるプリプレグはナノアロイ技術で作られた樹脂を含有
◆ナノアロイ技術で作られた樹脂を使うことで高復元力・高感度なのに高強度という相反する特徴を両立した
一応、なんとなくでも理解できるように噛み砕いてみたつもりです。
それでもだいぶわかりにくいかもしれませんが…
釣り業界というのは、高弾性カーボンとかナノアロイとかT1100といった謎の用語が先行して

って感じで釣り人の印象が作られてしまうという、よくない傾向があります。
確かに、T1100ってすごい製品だし、ナノアロイってすごい技術みたいなんですが、何がどうすごいのかが理解されないまま、用語だけが独り歩きしています。
近年注目されるT1100という釣り竿の素材。
・釣り竿にどう使われていて、どういう影響があるのか?
ということが少しでも伝われば幸いです。
もう少し知りたい人へ
このページでは「T1100GCが何者で、どういう特性があるのか?」ということをざっくりと理解することが目的でした。
なので、↑では細かい説明をだいぶ省略しました。
ここからは、もう少し細かいことを知りたい人向けに、いくつかテーマをピックアップしてご紹介します。
トレカ®とは
T1100をきっかけに東レのウェブサイトを初めて見た人にとって、『トレカ®』というワードを度々目にしたことでしょう。
これは、炭素繊維に関する東レ独自の商標です。
要するに東レが開発・製造している炭素繊維製品のことです。
炭素繊維製品をトレカと表現しているのは東レだけなので、炭素繊維製品全般のことをトレカというんだ…と誤解しないように気をつけてください。
T1100は実は中弾性カーボン
T1100の物性表をみると、一番右の欄に『引張弾性率』というのが書いてあります。
T1100を使用して作られたプリプレグは33tf(トンフォース)/mm2と書かれています。
この部分がアングラーがよく耳にする「〇〇tカーボン」という意味です。
東レのカーボン・プリプレグ一覧表を見ると35tf/mm2や38.5tf/mm2という引張弾性率のあるプリプレグも存在しています。
ほとんどの釣り竿が、使われるプリプレグの引張弾性率は38.5tf/mm2くらいまでだと思われます。
それでもT1100を使用して作られたプリプレグよりも高弾性といえますね。
釣り業界において「〇〇トン以上が高弾性カーボンロッド」という基準は特にありませんが、だいたい35tカーボン以上のカーボンをメイン素材に作られたロッドを高弾性ロッドと呼んでいます。
なので、T1100を使用したプリプレグで作られたロッドは、高弾性ちょい手前の中弾性ロッドということになります。
ナノアロイはカーボン素材ではなく樹脂
ナノアロイ技術が登場した2013年頃、ナノアロイ技術のことを『ナノカーボン』と表現しているメーカーが見受けられました。
そのため「ナノアロイ=カーボン素材」のような誤解が生まれたことをよく覚えています。
確かに「ナノアロイ技術で作られたエポキシ樹脂を含有したプリプレグ」という意味を省略して表現すれば、『ナノカーボン』になるのかもしれませんが…
これは誤解を生む根源です。
東レのウェブサイトによればナノアロイは樹脂に関する技術のように書かれています。
なので、ナノアロイというのはカーボン素材そのものではありません。
プリプレグには樹脂がけっこう含まれている
カーボンプリプレグに関する東レの物性表一覧を見てみると樹脂含有率という欄があります。

プリプレグ全体でみると炭素繊維が70~76%、樹脂が24~30%と、樹脂もけっこう多く含まれていることがわかります。
ナノアロイ技術から作られた樹脂にすればプリプレグに含まれる樹脂の量を減らせる…という話を聞いたことがあるかもしれませんが、ナノアロイ技術を適用したプリプレグが特別に樹脂の量が少ないわけではありません。
雑誌やメーカーのウェブサイトを見ていて気になることがあれば、今後もこのページに追記していきます。